top of page

星野知子の
新 鎌倉その日その日
キーワード


星を仰げば
冷えた夜に、歩きながら空を見上げる。 あ、こんなにくっきり星が出ていた、と気づいてしばし足を止める。 澄んでキーンと凍る冬の空。星座には詳しくないが、この季節、すぐにわかるのはオリオン座だ。目印は右肩上がりに並ぶ3つの星。ギリシャ神話の狩人オリオンの、ベルトの部分が3つ星だ。とはいっても、肉眼で見えるいくつかの星を結んでも、こん棒を振り上げる勇者の姿は浮かび上がってこない。 冬の星座は、他にふたご座、おうし座、いろいろあるが、実際の星座より雑誌の星占いのページのほうがおなじみかもしれない。私は天秤座だ。占いによれば、性格は公平で平衡感覚がよく、優柔不断なところが弱点らしい。合っているような、違っているような。でも気にはなる。星は人の運命をつかさどっていると信じられてきた。星を見上げていると、宇宙の営みの中、小さな地球でほんのひととき生きる私たちは、はかりしれない力に支配されていると思えてくる。 星座は5000年前の古代メソポタミアで、羊飼いたちが星を繋いで身近な動物に見立てたことが始まりとされている。宇宙という概念をもたず、光も音もない大地から眺
2月10日読了時間: 5分


マナーアップ
歩いて行ける範囲に神社がいくつもあるのは鎌倉ならでは。散歩がてらの初詣は毎年のことだ。お正月の境内は晴れ晴れとした「いい気」につつまれている。 昔は欲張っていくつもお願いをしたが、今は元気で新年を迎えられたことに感謝して、「家族が健康でありますように」「災害が起きませんように」と、手を合わせてお参りする。 小さな神社でも観光客は多く、年々増えているようだ。年初めに古都鎌倉を訪れたい気持ちは、わかる。 去年のお正月、境内の手水舎(ちょうずや)でひしゃくを持つ私の手を見ている視線に気がついた。東南アジアからだろうか、女性のグループだ。私が水を汲んで手を洗い、口をすすぐのを真似している。神妙な面持ちだ。「水は飲まないのよ」と身振りで教えるとニッコリうなづいた。日本の伝統的なしきたりを真摯に試みてくれるのはうれしい。一方で、手水舎に平気で手を突っ込む若者を発見。とっさに「それはダメ」と声が出てしまった。 観光客のマナーの悪さが目立っている。人が何倍にも増えると、マナー違反はそのまた倍になるのだろうか。 先日、駅の近くの海産物店で、レジの大きな張り紙が目に
2026年1月1日読了時間: 5分


カラスミ作り
そろそろお店に並んでいるかなあ、と鮮魚店のガラス戸を開ける。冬の海の幸は見るだけでも楽しい。カキにカニ、寒ブリ、アンコウ。どれも大好物だ。でも、私のお目当てはボラの子(卵)。11月から12月の短い間しか出回らないし、数も少ないから、見つけると即購入する。 毎年、手に入ればボラの子でカラスミを作る。へー、カラスミって素人でも作れるの? と驚かれるが、作れるのです。本格的ではないけれど、そこそこ美味に、いとも簡単にできちゃうのです。 カラスミ作り歴は長い。もう20年近く前からだ。最初は東京・築地の場外市場をブラブラしていたときのこと。午後2時過ぎで買い物客は少なく、どの店も片付けはじめていた。 「あの、ボラの子を買ってくれませんか?」 通りかかった鮮魚店からすがるような声が聞こえた。 ボラという魚の名前は知っていたが、ボラの子をどうやって食べるのだろう。煮物? 若い店員は関心を持った私の表情を見て、 「カラスミは好きですか?」 ときた。もちろん好きだ。ただ、めったに口にすることはない。特別なときにほんの1、2枚ありがたくいただく高級珍味だ。...
2025年12月20日読了時間: 5分


ササリンドウ
あら、こんなところにセーラームーンが——。足元で愛らしいアニメの主人公が笑っていた。 東京の麻布十番商店街入り口で、カラフルなマンホールの蓋を見つけた。1990年代に一世を風靡(ふうび)した「美少女戦士セーラームーン」。金髪をなびかせ得意のポーズで決めている。ポスターのように色鮮やかだから、踏むのは気が引ける。道行く人たちもマンホールをよけて歩いていた。 その土地に縁のあるキャラクターや名産品が描かれた「ご当地マンホール」が、今人気だ。地域の特徴を表し、宣伝にもなる。今年は大谷翔平選手のデザインマンホールが出身地の奥州市に設置されて話題になった。各地でお目当ての蓋を探したり、お気に入りのデザインを見つけたり、密かな町歩きの楽しみになっているようだ。 普段、気にとめずに歩いているが、マンホールは驚くほどたくさんある。自宅の玄関を出て100メートル足らずで25個を数えた。等間隔ではなく道のあちこちに散らばる丸い蓋は、美観をそこねているようで、アートにも見えてくる。蓋のデザインも様々だ。 鎌倉の絵柄で多いのは鎌倉市章のササリンドウだ。3つの花の下に5枚
2025年11月14日読了時間: 5分


中秋の名月
鎌倉・由比ヶ浜から見る中秋の名月(星野知子撮影) スーパームーンにブルームーン、ブラッドムーンも。最近よく耳にする満月の呼び名だ。スーパームーンは、軌道の関係で月が最も地球に近づいたときの大きな満月。ブルームーンは色ではなく、月に2回満月があることだそうだ。そして皆既月食で月が赤黒くなる現象がブラッドムーン。色も形も変化する月の神秘は、科学で解明された今もやはりミステリアスだ。 今年の中秋の名月は10月6日。澄んだ秋の空を昇る満月は格別だ。夜のニュースで「今日は中秋の名月です」と紹介されて、テレビ画面一杯にまん丸の月が映し出される。カメラレンズもテレビも性能がいいから、月はすぐ目の前にあるようにはっきり見える。岩石でできた複雑な地形も、クレーターのデコボコも。 きれいなんだけどね……、と私はベランダに出て、夜空を見上げる。そう、これが満月。はるか遠く、ぽってりあたたかい。年齢とともに私の目も悪くなっているから、多少おぼろに見えるくらいがちょうどいい。 鎌倉は月が美しい。都心から越してきて月をよく眺めるようになった。高い建物がなく山と海に囲まれた鎌
2025年10月19日読了時間: 5分


米賛歌
そういえば「えの田(でん)」はいつなくなったのだろう? 江ノ電の鎌倉駅、到着ホーム脇に小さな田んぼがあった。畳数枚くらいの大きさで、たしか古代米を作っていた。愛嬌のある案山子(かかし)が立っていて、電車から降りるたびに稲の成長を見るのが楽しみだった。刈り取った稲は天日干しで、鉄道会社の田んぼならでは、干し場が踏切の遮断棒でできていた。今は、一面雑草が生い茂っている。 「えの田」を思い出したのは、久しぶりに生まれ故郷の長岡に帰ったからだ。 八月の初め、新幹線で新潟県に入ると青々とした田んぼが広がっていた。早場米はもう新米が出回っているが、新潟の、それも山間部のコシヒカリの刈り入れは例年九月中旬から十月にかけて。田んぼが黄金色に波立つようになるのはもう少し先だ。 上越新幹線の車窓からの眺め。8月の新潟県魚沼地方 車窓からは瑞々しく見えるが、この夏は早くから猛暑が続き、長い水不足のあとに急激な大雨となった。米の出来が心配だ。稲穂がびっしり重く実をつけて収穫の時期を迎えてほしいと願っている。 米どころ新潟で生まれた私は、コシヒカリを食べて育った。今のよう
2025年9月20日読了時間: 5分
*ここに掲載したエッセイは、月刊『かまくら春秋』に収録され刊行・発売されている作品です。無断使用・転載・複製を禁じます。


bottom of page


