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虹の日

  • 執筆者の写真: 文と写真 星野 知子|Tomoko Hoshino
    文と写真 星野 知子|Tomoko Hoshino
  • 3 日前
  • 読了時間: 5分

にゃん、にゃん、にゃん、で2月22日は「ネコの日」。「いちごの日」は1月5日。語呂合わせの記念日だ。1年は365日。記念日はその何倍もの数だという。「肉の日」や「俳句の日」はわかりやすいが、中には無理矢理こじつけた日もあってクスッと笑える。


「虹の日」は、7月16日だそうだ。七(なな)一(い)六(ろ)、で七色(なないろ)。なるほど。おぼえやすい。


梅雨明けの青い空に虹を見つけるとうれしい。虹は待っていても出てくれない。いつも突然に現れる。電車の窓からぼんやり景色を眺めているとき、庭で水まきしていてシャワーの水滴の中にできることもある。子どものころはシャボン玉が虹色に輝くのが不思議だった。風に舞うまん丸の泡のひとつひとつの虹に見とれていた。


虹ができるのは太陽と水の粒の共同作業。科学的には光の屈折と反射がつくる「大気光学現象」というものだそうだが、むずかしいことはさておき、私にとって虹は神秘的でマジックみたいで、何かいいことがありそう、そういう特別の存在だ。


鎌倉でも虹が出るたび足を止めている。忘れられないのは光明寺で見た虹だ。


材木座に出かけたついでに光明寺に寄った。海のすぐそばのお寺は潮風が吹き抜けて開放感がある。その裏道を登っていくと展望台になっている。ここからの眺めがすばらしい。正面に海を見下ろし、遠くに富士山が眺められる。その日はぐずついていた天気が回復して雲の切れ間から太陽がのぞいていた。大海原はキラキラ輝くさざ波。でも、富士山は厚い雲の中だ。風が雲を飛ばしてくれないかと少し眺めて、ふと振り返ったら、太い虹が空にのびていた。不意を突かれて息をのんだ。すごく近い。えー、ずっとそこにいたの? 早く教えてほしかった、と虹に向かってひとり言をつぶやいているうちに、鮮やかな七色はスーッと薄くなり消えてしまった。ほどなく日が陰り、あたりはいつもの夕暮れの景色となった。富士山は見えなくても虹を拝めていい日だった。足取り軽く階段を降りた。


虹は夢や希望や幸福の象徴だ。虹の麓には宝物が埋まっている。虹の麓には幸せがある、とも聞いた。でも、虹は光のまやかし、追いかけてもたどり着けない。


実際には掴むことのできない虹だけど、人は虹色のものをつくって少しばかり夢の達成感を味わっている。私はそんな虹色でも結構幸せにしてもらっている。カラフルなレインボーケーキをおみやげにいただいたことがあって、味よりもインパクトのある色にテンションが上がった。夏ならかき氷。いつもは渋いひき茶や赤一色のイチゴ味が好きだが、たまにゴージャスなレインボーカラーで体を冷やすと元気になる気がする。


ただ、食べ終わって鏡で口の中を見たら、舌が濁った汚い色に染まっていた。光の七色は混ざると白(透明)になるのに、人工的な色は黒に近づく。色の原理を舌のカンバスで確認した。


夜のレインボーブリッジを年末に渡るのも楽しみにしている。車で鎌倉と東京を行き来するときは、たいていレインボーブリッジを通る。普段のライトアップは白っぽくて、それはそれでシンプルで美しいが、クリスマスシーズンになると七色の特別バージョンに変わる。私はいつも運転しながら、子どものころ夢見ていたことを思い出す。太鼓橋を渡るように虹の上を歩きたい。きっと絵本やイラストでそんな絵を見ていたからだろう。この年齢になって、虹色の橋を走り抜けながらときめくなんて気恥ずかしいが……、まあ、いいじゃない。


今まで見た虹の中で一番大きかったのは、世界三大瀑布のひとつ、イグアスの滝でだった。


南米のブラジルとアルゼンチンの国境に位置する滝はスケールが違う。幅4キロメートル、滝の数が約300。700メートルもの断崖絶壁を轟音とともに水が落ちていく。滝壺は水煙で真っ白だ。ブラジル側からもアルゼンチン側からも滝見物を楽しめるようになっているが、絶景ポイントではレインコートが必須、晴れているのに舞い上がる水しぶきでびしょ濡れになる。


「イグアスの滝」に架かる虹(星野知子撮影)
イグアスの滝に架かる虹(筆者撮影)

大パノラマの滝に囲まれるように、巨大な虹がくっきり出ていた。それも短い時間ではなく、私がいる間ずっと消えることはなかった。もくもくと湧き上がる白い水煙に七色が映えて鮮やか。形も絵に描いたような弓型だ。虹の麓から麓まで何キロあるのだろう。フェンスから身を乗り出して見ていた私は、隣のガイドさんにたずねた。


「もしかして、あの虹はブラジルとアルゼンチンにまたがっていますか?」

滝の中央付近が両国の国境線だ。ああ、そうですね、とブラジル人の男性ガイドはうなづいた。なんと、国と国を結んで架かる虹だ。


ブラジルでも虹は希望や平和を意味するのだそうだ。


「虹はお互いの国の架け橋ですよ。歴史的にはいろいろ緊張することもありましたが、今は南米の良きライバルで、良きパートナーです」

そして、こう続けた。

「ただし、サッカーでは負けられません。因縁のライバルですから」


確かにランキング上位の強豪どうし、試合は常に熱くなる。ガイドさんはサッカーの話題で終わらせたが、ブラジルとアルゼンチンは言葉も民族構成も異なる。複雑な感情もありそうだった。どの国でも隣国とは問題をかかえているものだ。


でも、国境には虹の橋。太陽と水が、大自然を舞台に両国の「平和と友好」を望んでいるように見えてきた。虹はやっぱり希望を感じさせてくれる。


日本のなな・い・ろ、の「虹の日」は、2018年に制定された比較的新しい記念日だ。人をつなぎ、地域を結び、世代を超えて架かる虹の橋。こういう記念日は定着してほしい。


2026 © Hoshino Tomoko

星野知子が描いた�カタツムリのイラスト

Maison d’un Limaçon

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カタツムリのイラストは星野知子の作品です。
© 2026 Hoshino Tomoko 星野知子™

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