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「新 鎌倉その日その日」

新 鎌倉その日その日
星野知子の


「マナーアップ」
歩いて行ける範囲に神社がいくつもあるのは鎌倉ならでは。散歩がてらの初詣は毎年のことだ。お正月の境内は晴れ晴れとした「いい気」につつまれている。 昔は欲張っていくつもお願いをしたが、今は元気で新年を迎えられたことに感謝して、「家族が健康でありますように」「災害が起きませんように」と、手を合わせてお参りする。 小さな神社でも観光客は多く、年々増えているようだ。年初めに古都鎌倉を訪れたい気持ちは、わかる。 去年のお正月、境内の手水舎(ちょうずや)でひしゃくを持つ私の手を見ている視線に気がついた。東南アジアからだろうか、女性のグループだ。私が水を汲んで手を洗い、口をすすぐのを真似している。神妙な面持ちだ。「水は飲まないのよ」と身振りで教えるとニッコリうなづいた。日本の伝統的なしきたりを真摯に試みてくれるのはうれしい。一方で、手水舎に平気で手を突っ込む若者を発見。とっさに「それはダメ」と声が出てしまった。 観光客のマナーの悪さが目立っている。人が何倍にも増えると、マナー違反はそのまた倍になるのだろうか。 先日、駅の近くの海産物店で、レジの大きな張り紙が目に
2026年1月1日読了時間: 5分


「カラスミ作り」
そろそろお店に並んでいるかなあ、と鮮魚店のガラス戸を開ける。冬の海の幸は見るだけでも楽しい。カキにカニ、寒ブリ、アンコウ。どれも大好物だ。でも、私のお目当てはボラの子(卵)。11月から12月の短い間しか出回らないし、数も少ないから、見つけると即購入する。 毎年、手に入ればボラの子でカラスミを作る。へー、カラスミって素人でも作れるの? と驚かれるが、作れるのです。本格的ではないけれど、そこそこ美味に、いとも簡単にできちゃうのです。 カラスミ作り歴は長い。もう20年近く前からだ。最初は東京・築地の場外市場をブラブラしていたときのこと。午後2時過ぎで買い物客は少なく、どの店も片付けはじめていた。 「あの、ボラの子を買ってくれませんか?」 通りかかった鮮魚店からすがるような声が聞こえた。 ボラという魚の名前は知っていたが、ボラの子をどうやって食べるのだろう。煮物? 若い店員は関心を持った私の表情を見て、 「カラスミは好きですか?」 ときた。もちろん好きだ。ただ、めったに口にすることはない。特別なときにほんの1、2枚ありがたくいただく高級珍味だ。...
2025年12月20日読了時間: 5分


「ササリンドウ」
あら、こんなところにセーラームーンが——。足元で愛らしいアニメの主人公が笑っていた。 東京の麻布十番商店街入り口で、カラフルなマンホールの蓋を見つけた。1990年代に一世を風靡(ふうび)した「美少女戦士セーラームーン」。金髪をなびかせ得意のポーズで決めている。ポスターのように色鮮やかだから、踏むのは気が引ける。道行く人たちもマンホールをよけて歩いていた。 その土地に縁のあるキャラクターや名産品が描かれた「ご当地マンホール」が、今人気だ。地域の特徴を表し、宣伝にもなる。今年は大谷翔平選手のデザインマンホールが出身地の奥州市に設置されて話題になった。各地でお目当ての蓋を探したり、お気に入りのデザインを見つけたり、密かな町歩きの楽しみになっているようだ。 普段、気にとめずに歩いているが、マンホールは驚くほどたくさんある。自宅の玄関を出て100メートル足らずで25個を数えた。等間隔ではなく道のあちこちに散らばる丸い蓋は、美観をそこねているようで、アートにも見えてくる。蓋のデザインも様々だ。 鎌倉の絵柄で多いのは鎌倉市章のササリンドウだ。3つの花の下に5枚
2025年11月14日読了時間: 4分


「中秋の名月」
鎌倉・由比ヶ浜から見る中秋の名月(星野知子撮影) スーパームーンにブルームーン、ブラッドムーンも。最近よく耳にする満月の呼び名だ。スーパームーンは、軌道の関係で月が最も地球に近づいたときの大きな満月。ブルームーンは色ではなく、月に2回満月があることだそうだ。そして皆既月食で月が赤黒くなる現象がブラッドムーン。色も形も変化する月の神秘は、科学で解明された今もやはりミステリアスだ。 今年の中秋の名月は10月6日。澄んだ秋の空を昇る満月は格別だ。夜のニュースで「今日は中秋の名月です」と紹介されて、テレビ画面一杯にまん丸の月が映し出される。カメラレンズもテレビも性能がいいから、月はすぐ目の前にあるようにはっきり見える。岩石でできた複雑な地形も、クレーターのデコボコも。 きれいなんだけどね……、と私はベランダに出て、夜空を見上げる。そう、これが満月。はるか遠く、ぽってりあたたかい。年齢とともに私の目も悪くなっているから、多少おぼろに見えるくらいがちょうどいい。 鎌倉は月が美しい。都心から越してきて月をよく眺めるようになった。高い建物がなく山と海に囲まれた鎌
2025年10月19日読了時間: 5分


「米賛歌」
そういえば「えの田(でん)」はいつなくなったのだろう? 江ノ電の鎌倉駅、到着ホーム脇に小さな田んぼがあった。畳数枚くらいの大きさで、たしか古代米を作っていた。愛嬌のある案山子(かかし)が立っていて、電車から降りるたびに稲の成長を見るのが楽しみだった。刈り取った稲は天日干しで...
2025年9月20日読了時間: 5分


「うちわの風は」
この夏のはじまりは早かった。六月、梅雨の中休みかと思いきや夏日が続きそのまま真夏の暑さに突入。そしてどうやら残暑厳しく秋の訪れも遅そうだ。いやはや……。 出かけるときには覚悟が必要だ。麦わら帽子と水筒を持参するくらいでは心もとない。冷感マスク、冷感スプレー、冷感タオル……。...
2025年8月17日読了時間: 5分


「花火と私」
数ある手持ち花火の中で何が好きかと聞かれたら、迷わず線香花火と答える。とはいっても、今は花火をする機会はなく、子どものころの思い出だ。 いつだったか国産の線香花火をいただいて、何十年ぶりに楽しんだ。ずいぶん品質がよくなっていた。橙色の火の玉はふっくら大きくて、飛び散る火花も...
2025年7月18日読了時間: 5分


「かたつむり」
でんでんむしむし、かたつむり、と歌っても、かたつむりは虫ではありません。貝の仲間。 梅雨時に、濡れた葉っぱをひっくり返す。ツノがきゅっとちぢんでコロンとした殻に身を隠す。子どものころは親しい遊び友だちみたいな存在だった。...
2025年6月21日読了時間: 5分


「竹の音」
晴れた日、和室の障子戸に竹の影が映る。隣の家との境に植えた布袋竹(ほていちく)だ。しなりながら揺れる枝や葉の影絵は、見ていて飽きない。サヤサヤ、サワサワ……。目で感じる風薫る季節だ。 竹は成長が早い。地面の玉砂利を押しのけてタケノコが出てくると、数日後には腰くらいの高さに...
2025年5月21日読了時間: 5分


「原稿用紙愛」
ピッカピッカの、1年生! ずいぶん前に流行ったテレビCMだ。4月に真新しいランドセルを背負った子どもたちを見かけると、いつもこの歌を口ずさんでしまう。 最近はリュックの生徒も多いが、カバンの中には新しい教科書とノート、筆箱が入っているはず。国語に算数、道徳に音楽。1年生は未...
2025年4月21日読了時間: 5分


「春の始動」
啓蟄(けいちつ)という文字を見るとなんだかムズムズする。冬ごもりしていた虫たちがあたたかくなって土から這い出してくる季節。漢字で書くと虫へんのカエルやヘビもその仲間だ。もちろんあちこちで木の芽も顔を出す。やわらかな陽に誘われて、自然はムズムズモゾモゾにぎわってくる。...
2025年3月22日読了時間: 5分


「若布とか海苔とか」
夏の湘南もいいけれど、暮らしてみて思うのは、冬がすばらしい。キリリと冷たい風に青い空。日差しは強く、海は澄んだエメラルド色に変わる。その向こうに真っ白な富士山が眺められるのだから、思わず深呼吸。遠くに住む友人たちには冬に遊びに来てよ、といつも言っている。...
2025年2月21日読了時間: 5分
ここに掲載したエッセイは、月刊『かまくら春秋』に収録され、刊行・発売されている作品です。
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