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星野知子の
新 鎌倉その日その日
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花火と私
数ある手持ち花火の中で何が好きかと聞かれたら、迷わず線香花火と答える。とはいっても、今は花火をする機会はなく、子どものころの思い出だ。 いつだったか国産の線香花火をいただいて、何十年ぶりに楽しんだ。ずいぶん品質がよくなっていた。橙色の火の玉はふっくら大きくて、飛び散る火花も豪華だ。こんなにきれいだったかしら。こんなに長持ちしたかしら。さすが国産、一時は廃(すた)れて製造されなくなっていたが、高級品として復活したのだという。 昔は、夏の夜に家の前でよく花火をした。ろうそくと水を張ったバケツを準備して、近所の人たちも集まってにぎやかだった。 花火セットからひとつずつ選び、次々に点火していく。棒の先から勢いよく火花が飛び出すススキや、地面をクルクル回るネズミ花火も好きだったが、いつも最後は線香花火だった。みんなで輪になってしゃがみ、一本ずつ手に持った。火をつけると、チリチリと火玉が大きくなっていく。息を止めて指先に集中するうち、小刻みに震える火玉から四方八方に花が咲きはじめる。パチパチパチ……、ひそやかで夢のように華やかだった。 線香花火を思い出すとき
2025年7月18日読了時間: 5分


若布とか海苔とか
夏の湘南もいいけれど、暮らしてみて思うのは、冬がすばらしい。キリリと冷たい風に青い空。日差しは強く、海は澄んだエメラルド色に変わる。その向こうに真っ白な富士山が眺められるのだから、思わず深呼吸。遠くに住む友人たちには冬に遊びに来てよ、といつも言っている。 ダウンにマフラー、しっかり日焼け止めクリームを塗って海辺を散歩する。サーファーやランナー。はしゃぐ子どもたち。尻尾をふって波を追いかけるイヌ。寒くても浜は元気だ。 2月になるとあちこちで見られるのが若布(わかめ)干しだ。浜に組んだ大きな干し場で、細長い若布が潮風になびいている。 ああ、今年もはじまりましたね。そろそろ若布のしゃぶしゃぶの季節、と思わずにんまりする。沸かした鍋のお湯にヌメヌメした黒い海藻を浸したとたん、目の覚めるような緑色になる。この瞬間、わかっていても毎年感動する。新緑を思わせる色は、もうすぐ来る春を感じてときめいてくる。 今では見なれている若布干しだが、鎌倉に引っ越してきたときは、「なに?あれは!」とかなり驚いた。砂浜に巨大な洗濯物干し場(?)が出現し、ぶら下がっているのは無数
2025年2月21日読了時間: 5分


腕時計の針が
休日、鎌倉には家族連れがたくさん訪れる。子どもたちが海辺をかけまわったり、小町通りで食べ歩きしたり。元気に動き回る姿がかわいらしくてつい目で追っている。 気がついたのは、小さな腕にはめている腕時計だ。けっこう見かける。カラフルな色でデザインもかっこいい。今は小学生でも腕時計を持っているんだなあ、と昭和に育った私は驚いている。 昔は気軽に買える値段の時計はなかったし、子どもが持つものではなかった。私が腕時計を買ってもらったのは高校に入学するときだ。たぶんどの家庭もそうだったと思う。真新しい学生カバンを持ち、左手首に時計をすると、おとなにならなくちゃという気分になった。もしなくしたら、こわしてしまったら、と最初は不安だった。 そのころ星新一のショートショートが流行っていて、私も夢中になって読んでいた。しゃれたユーモアと風刺、クスッと笑いゾクッと恐くなる不思議な短編ばかり。その中に腕時計がテーマの小説があった。ひと目惚れして買った腕時計を大事にメンテナンスしていた男性。いつも正確に時を刻んでいたのに、旅行に行く朝に時計の針が遅れてバスに乗り遅れてしまう
2024年11月21日読了時間: 5分


人工音声
テレビニュースで人工音声が増えている。 アナウンサーが「ここからは人工音声でお伝えします」と断りを入れると、コンピューターの作った声にバトンタッチ。ニュース映像の画面の隅に「AI自動音声でお伝えしています」と表示が出る。数年前までは不自然な棒読みだったが、最近はずいぶん聞きやすくなった。 よく聴いている湘南ビーチFMも、人工音声でのニュースが普通になっている。ちょっと前に名前があるのに気がついた。柔らかい発音でよどみなくニュースを伝え終わると、声は名乗った。 「このニュースは株式会社エーアイのふみのいっせいがお送りしました」 ええっ、ふみのさん?と驚いた私だが、なにを言ってるの、もうあたりまえですよ、と笑われた。そういう時代になっているらしいのだ。 ふみのいっせい。「文野一成」さん、だそうだ。名前がつくと急に人格が備わって実在する人のような気がするから不思議だ。文野さんは人工音声のプロダクションに所属している。プロダクションには声質の異なった何人(?)ものバーチャルアナウンサーがスタンバイして、企業や放送局の依頼で派遣されるという。...
2024年5月10日読了時間: 5分
*ここに掲載したエッセイは、月刊『かまくら春秋』に収録され刊行・発売されている作品です。無断使用・転載・複製を禁じます。


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