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「新 鎌倉その日その日」

新 鎌倉その日その日
星野知子の


「カラスミ作り」
そろそろお店に並んでいるかなあ、と鮮魚店のガラス戸を開ける。冬の海の幸は見るだけでも楽しい。カキにカニ、寒ブリ、アンコウ。どれも大好物だ。でも、私のお目当てはボラの子(卵)。11月から12月の短い間しか出回らないし、数も少ないから、見つけると即購入する。 毎年、手に入ればボラの子でカラスミを作る。へー、カラスミって素人でも作れるの? と驚かれるが、作れるのです。本格的ではないけれど、そこそこ美味に、いとも簡単にできちゃうのです。 カラスミ作り歴は長い。もう20年近く前からだ。最初は東京・築地の場外市場をブラブラしていたときのこと。午後2時過ぎで買い物客は少なく、どの店も片付けはじめていた。 「あの、ボラの子を買ってくれませんか?」 通りかかった鮮魚店からすがるような声が聞こえた。 ボラという魚の名前は知っていたが、ボラの子をどうやって食べるのだろう。煮物? 若い店員は関心を持った私の表情を見て、 「カラスミは好きですか?」 ときた。もちろん好きだ。ただ、めったに口にすることはない。特別なときにほんの1、2枚ありがたくいただく高級珍味だ。...
2025年12月20日読了時間: 5分


「米賛歌」
そういえば「えの田(でん)」はいつなくなったのだろう? 江ノ電の鎌倉駅、到着ホーム脇に小さな田んぼがあった。畳数枚くらいの大きさで、たしか古代米を作っていた。愛嬌のある案山子(かかし)が立っていて、電車から降りるたびに稲の成長を見るのが楽しみだった。刈り取った稲は天日干しで、鉄道会社の田んぼならでは、干し場が踏切の遮断棒でできていた。今は、一面雑草が生い茂っている。 「えの田」を思い出したのは、久しぶりに生まれ故郷の長岡に帰ったからだ。 八月の初め、新幹線で新潟県に入ると青々とした田んぼが広がっていた。早場米はもう新米が出回っているが、新潟の、それも山間部のコシヒカリの刈り入れは例年九月中旬から十月にかけて。田んぼが黄金色に波立つようになるのはもう少し先だ。 上越新幹線の車窓からの眺め。8月の新潟県魚沼地方 車窓からは瑞々しく見えるが、この夏は早くから猛暑が続き、長い水不足のあとに急激な大雨となった。米の出来が心配だ。稲穂がびっしり重く実をつけて収穫の時期を迎えてほしいと願っている。 米どころ新潟で生まれた私は、コシヒカリを食べて育った。今のよう
2025年9月20日読了時間: 5分


「若布とか海苔とか」
夏の湘南もいいけれど、暮らしてみて思うのは、冬がすばらしい。キリリと冷たい風に青い空。日差しは強く、海は澄んだエメラルド色に変わる。その向こうに真っ白な富士山が眺められるのだから、思わず深呼吸。遠くに住む友人たちには冬に遊びに来てよ、といつも言っている。 ダウンにマフラー、しっかり日焼け止めクリームを塗って海辺を散歩する。サーファーやランナー。はしゃぐ子どもたち。尻尾をふって波を追いかけるイヌ。寒くても浜は元気だ。 2月になるとあちこちで見られるのが若布(わかめ)干しだ。浜に組んだ大きな干し場で、細長い若布が潮風になびいている。 ああ、今年もはじまりましたね。そろそろ若布のしゃぶしゃぶの季節、と思わずにんまりする。沸かした鍋のお湯にヌメヌメした黒い海藻を浸したとたん、目の覚めるような緑色になる。この瞬間、わかっていても毎年感動する。新緑を思わせる色は、もうすぐ来る春を感じてときめいてくる。 今では見なれている若布干しだが、鎌倉に引っ越してきたときは、「なに?あれは!」とかなり驚いた。砂浜に巨大な洗濯物干し場(?)が出現し、ぶら下がっているのは無数
2025年2月21日読了時間: 5分


「鮮やかな新年」
おせちの準備に大掃除、少しだけ断捨離もして。毎年のことながら年末は忙しい。ほっと落ち着くのは大晦日の午後になってからだ。 それほど頑張るわけではないが、「年の瀬」という言葉の切羽詰まった感じに追い立てられるように体を動かしたほうが、お正月のゆったりまったりした気分が際立ってくる。 鎌倉はお正月の準備に気合いが入る。引っ越してきて初めての年の瀬にうれしくなった。 クリスマス商戦が静かに過ぎて、町は26日から活気づく。お正月の食材や飾りが一斉に出回るのはどこでも変わらないが、昔ながらのお正月を迎える意気込みがある。和菓子屋で鏡餅を3合、5合、1升と各サイズで注文できる。立派な床の間に生けるような松や大輪の花が華やかに並んでいる。私にはとても新鮮だった。 玄関には何を飾ろうか。暮れも押し詰まってから、迷った。近所を気にして見ると、輪飾りを門の両脇にかけているお宅が多かった。細い松に藁の輪と紙垂だけのシンプルな飾り。真似をして、我が家も同じものにした。 そのしめ飾りやお花は、28日か30日に飾るということも鎌倉で知った。28日は末広がりで縁起がいい。29
2024年1月10日読了時間: 5分
*ここに掲載したエッセイは、月刊『かまくら春秋』に収録され刊行・発売されている作品です。無断使用・転載・複製を禁じます。


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